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瑠璃のにゃんこ部屋

シェリルさん18歳お誕生日 その7

シェリル、お誕生日おめでとう!
・・・ってことで数日前にシェリルのお誕生日話を読み返していて、ですね。
あれ・・・完結してない・・・だと・・・?
完結してるものだとばかり思い込んでたよ!んでもって2011年のだから、2年も放置してしまったよ!
それなので、本っ当に今更なんだけど、完結させます。いやー、本当にすみませんでした。
シェリルもごめんよ~、愛してるよ!

そうそう、6話めでシェリルのお母さんの名前を“サラ”にしたのは、シェリルまんが読む前に決めてたからです。






ハッピーバースデーディアシェリル 7


「単純じゃ無い話もあるのかしら?」
 単純な事実関係から言えば、とオズマは言った。ということは単純じゃない話があるかもしれない、ということにシェリルが鋭く突っ込む。
 中途半端でやめれば、いつまでたっても引きずってしまう。それがわかっているから、オズマは咳を一つして始めた。
「B・Jグローバルはバジュラ関連の一連の始まりの場所だ。最高責任者はマオ・ノーム博士。ランシェ・メイ博士もいた。オレはその頃、今のアルトくらいの年で117船団の護衛でグローバルにいた。尤もぺーぺーで、マオ博士に声をかけられるような身分じゃなかったがな。そして・・・グレイス・オコナーもそこにいた」
 重ねた手の下のシェリルの手が、びくりと反応する。グレイス・オコナーの名は、まだシェリルの心を乱す力があるのだ。アルトはその手をぎゅっと握った。
「偶然一度だけグレイスに会ったことがある。少なくともその時の彼女は、科学者として真剣に人類の未来って奴を考えていたと思う。上司も同僚も理解しようとしない、と嘆いてたな」
「その上司と同僚、ってのがシェリルのばあさんとランカのお袋さん、ですか」
「おそらくな」
「・・・・・・じゃ、シェリルの両親を・・・」
「いや、それはありえん。その直後に船団はバジュラに襲われて壊滅した。その何年も前に、ギャラクシーではインプラントが全面解禁されてる」
 アルトは小さく息をついた。シェリルの心の中には、まだどこかにグレイスを慕う思いがある。そのグレイスがシェリルの両親暗殺には係わっていないのはせめてもの救いだ。
 そして、グレイスは全身インプラントとなってギャラクシーに渡った。一人の女としての幸せのためではない。理論を完成させるために。何よりバジュラに、上司と同僚に復讐するために・・・。
「グレイスは、私がマオ・ノームの孫って知っててスラムから連れ出したのね・・・グレイスが適当に付けた名前だと思ってた。本当に、本当にシェリル・ノームだったんだわ」
 手紙には夫の名は無く、“彼”としか記されていなかったから、もしかしたら姓は違うかもしれない。でもシェリル・ノームという名も正しかったのだ。決して適当に付けた名ではなかった。
 その名にした理由は一つ。あなたの血を継ぐ者を利用してやるという復讐。
 100%生身をウリにする、そう言って全くインプラントをさせなかったのもV型に感染させるため。そして理解しなかったもう一人、ランシェに対する復讐でもあったのだろう。シェリルとランカを戦わせるために。
 ・・・・・でも。
 もう一度、折った便せんを広げて書いてある文字に目を落とす。
 例えグレイスが自分のためだけにシェリル・ノームと名付け、生身のままでいさせたとしても。
 結果として、両親が付けてくれた名前で生き、母が望んだ通り、そのままの自分で人と触れ合い、愛し合っている今の自分がいる。
 もういい。それがわかったから、いい。グレイスも、今の自分を作るのに絶対欠かせなかった。あの人の存在にどれほど助けられたかわからない。
「グレイス・・・母さん・・・おばあちゃん・・・!」
 何を聞いても、壁一枚隔てたように感じられなかった現実感が一気に押し寄せ、シェリルの瞳から大粒の涙が溢れた。何度もグレイスと母と祖母を呼びながら泣く。その体を抱きしめ、頭を撫でてくれるアルトの優しい手を感じながら。


 泣くだけ泣き、目と鼻の頭を真っ赤にしたシェリルは、そっとアルトの胸から顔を上げた。アルトはポケットからきちんと畳まれたハンカチを取り出し、その涙を拭う。
「大丈夫、か?」
 小さく、次いで大きく頷くと、呼吸を整え、姿勢を正して家の住人に対して頭を下げた。
「・・・取り乱しちゃってごめんさい」
「構わん。ヘビーな話だったからな」
 オズマの声も柔らかい。
「ありがとう。聞かせてもらって本当によかったわ」
 アルトも礼を言いたかった。用があるのはシェリルだけなのに、自分をここに居合わせてくれた。シェリルが泣いている時に、抱きしめることができた。シェリルにとって大切な大切なことを知ることができた。
 シェリルが一連の話を聞いてどういう反応を示すかわからなかったろうが、シェリルの支えとして、オズマはアルトを同席させたのだ。隊長には本当に頭が上がらないと思った。彼と自分の差を考えて歯噛みしながら、十年後には自分もそこにいるのだと心に決めた。

「・・・ランカちゃん?」
 部屋の空気が暖かく和む中、ランカがスカートを握りしめ、泣きそうな顔でうつむいてるのをシェリルが気付いた。その顔を、意を決したようにランカは上げ、シェリルをまっすぐに見つめる。
「調査船団が全滅したのは・・・私が歌ったから・・・バジュラが来て・・・」
 泣きそうな、でもはっきりした声のランカの告白。アルトはここでようやく気付いた。オズマとキャシーがタイミングを計った理由を。
 多くはシェリルを気遣ってだろう。まあそれなりに渡すつもりだったものを、シェリルの事情を知ってどのタイミングで渡すか迷った。
 だがもう一つ、シェリルの祖母が死んだのは、ランカが無関係ではないということだ。それこそランカが歌ったからバジュラが来て、船団が襲われ、壊滅した。だからアルトとシェリルが今日ここを訪れた時、ランカはいなかった。ランカを外させているうちにシェリルに全てを話すつもりだったのだ。
 それを卑怯だ、とはアルトは思わない。一年前だったらどうかわからないが、今のアルトは。オズマは妹を守ったのだ、と認められる。
「・・・おばあちゃんの話、してくれる?」
「・・・・・シェリルさん・・・」
「忘れちゃいけないことだけど、それに囚われて動けなくなるのはもっといけないことだわ。・・・ね、おばあちゃんの話、して?」
「・・・マオせんせいは・・・いたずらやわがまますると怒って怖かったけど・・・いつもはすっごく優しくて・・・私とお兄ちゃんにお菓子くれたり、地球のお話してくれたり・・・」
 ・・・きっと、ランカの記憶の中のマオ・ノームは多少なりとも美化されているのだろう。それでいいのだ、とアルトは思う。どんなに願ってもシェリルが祖母に会うことは叶わず、であれば「厳しいけれど優しくて物知りのおばあちゃん」でいい。
 その話を聞きながら、アルトは母のぬくもりを思いだし、受け継ぐものは必ずあるんだな、と再認識した。



 11月23日が判明したシェリルの誕生日だと知ると、仲間がパーティーの計画をしてくれた。
 ルカが場所を提供してくれた。ずっと入院していたナナセも退院できた。ランカとキャシーがケーキを用意するという。金髪の彼がいないけれど、「ミシェルがいたら絶対シェリルの誕生日を祝ってた!だから私が二人分祝うぞ!」とクランも参加を表明してくれた。
 その会場へ向かう道を、アルトとシェリルは歩いてた。
「幸せ!誕生日があるってこんなに幸せなのね」
 吐く息も白い、寒い夜をシェリルははしゃいで回る。もちろんこんな時期だから贅沢なパーティーなど望めないが、心から祝ってくれる仲間がいることが、今のシェリルの喜びだ。
「・・・シェリル」
「なあに?」
「その・・・何だ・・・今、渡しとく」
 アルトがポケットに手を突っ込み、出した時には掴んでいる物があった。
 シルバーのチェーン、その下で小さく揺れている木彫りのバラ。
「・・・アルト・・・これ・・・」
「・・・こんな時期だから、なかなかいいアクセなくてさ。来年はフロンティアもかなり復興進んでると思うし、だから今年はこいつで・・・」
 彫刻刀か何かで彫ったバラ。アルトの左手には、小さな傷がいくつかできていた。器用なアルトが、手に傷を作ってまで用意してくれたペンダント。
「・・・つけて?」
 ん、と短く言ってアルトはシェリルの髪をよけてそれを付けた。自分の胸を飾るそれを、シェリルは愛おしそうにみつめる。
「ありがとうアルト・・・大切にするわ。絶対、絶対大切にする・・・!」
 腕の中に飛び込んできたシェリルを、アルトはしっかり受け止めた。柔らかいふわふわの髪を撫で、涙を拭うい、そっと触れるキスをする。
「・・・ハッピーバースデー」
「ありがと・・・だいすきよ、アルト」
 今までできなかった分、これから何回も、何十回も、シェリルにハッピーバースデーを言おう。この世に生まれて来てくれて、ありがとう。
「さ、行こう、皆待ってる」
 頷いてシェリルがよりそう。その肩を抱いて、寒くて暖かい道を歩いた。


                                                        ・・・ 終わり
by castlesky | 2013-11-23 12:31 | マクロスF小説

只今屍鬼(SQ版)に夢中。敏夫と夏野が好きなので敏夏敏ベース。マクロスFアルシェリも大好物。同人サイトに限りリンクフリーですのでどうぞ。
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